蛍光バックグラウンドを根本から解決: 鉄含有サンプルの X 線回折における X 線源の選択

ラボ用装置を使った X 線回折測定は、通常、Cu-Kα 線を用いて行われます。しかし、サンプルに鉄が 含まれる場合は、蛍光 X 線が原因でバックグラウンドが高くなり、サンプルからの回折強度が見えにく くなってしまいます。このようなサンプルには波長の異なる適切な X 線源を選択することで、蛍光バック グラウンドを根本から解決し、短いスキャン時間でも高品質のデータを得ることができます。

序論

ほとんどのサンプルにおいて、Cu 陽極を持つ X 線管は、 回折に理想的な波長を持ち、最高の X 線強度と長寿命を 可能にするため、ラボ用 XRD 装置でよく使用されていま す。しかし、サンプルに鉄やコバルトが含まれている場 合、Cu 陽極を用いた回折データでは、蛍光によりバックグ ラウンドが高くなり、回折強度の低いピークが見えにくくな ってしまいます。また、サンプル対する X 線の浸透深度が 浅くなるため、回折に寄与する結晶子の数が少なくなり、 データ精度の低下や粒状性の問題が発生する可能性が あります。 鉄鋼業界では、Cr-Kα 線や Co-Kα 線が鉄を含むサン プルからの蛍光を大幅に抑えつつ、回折測定に適した波 長を持つことを熟知しており、何十年も前から Cr または Co 陽極を用いた XRD 測定を行っています 1、2。他の多く の研究分野では、サンプルに鉄やコバルトが含まれてい ても、Cu-Kα 線を使用することが一般的な手法でした 3。 多くの場合、蛍光の問題は無視され、高いバックグラウン ドと回折ピーク強度の低下は避けられないものとして受け 入れられていますが、蛍光の存在下で Cu 陽極で収集し た回折像の品質を向上させる手法も確立されています。1 つ目は、モノクロメーターが回折した X 線のみを通過させ ることを利用し、受光側にモノクロメーターを配置して蛍光 を除去する手法です。2 つ目は、エネルギー分散型検出 器を用いて、検出器内で直接同じ波長選択を行う手法で す。どちらの手法も、蛍光由来のバックグラウンドを低減 し、見栄えの良い回折像を得ることができます。しかし、蛍 光の問題である高い測定バックグラウンドに対する対症 療法にすぎません。入射した X 線の多くはサンプルで蛍 光に変換されるため、十分な回折強度を得るには長い測 定時間が必要になり、また侵入深さが浅いといった潜在 的な問題は解決されません。さらに、検出器によるエネル ギーフィルタリングを行う際に、鉄やコバルトの含有量が 多い試料では、蛍光バックグラウンドの強度が一様に高 く、検出器で観測されるカウントレートが非常に高くなるこ とが問題になることもあります。 アントンパールの粉末 X 線回折装置 XRDynamic 500 は、 従来の回折装置とは異なり、X 線管の交換と新しいシステ ムセットアップの完全自動アライメントを簡単かつ迅速に 行うことができます。そのため、サンプルごとに最適な X 線管を選択するだけで、蛍光の問題を根本から解決する ことができます。このアプリケーションレポートでは、鉄の 含有量が異なる鉄含有サンプルを各種 X 線管で調べ、サ ンプルに適した X 線管を選択することの利点を紹介しま す。

 

参考文献

1. F.S. Gardner, M. Cohen and D.P. Antia, Trans. AIME 154 (1943), 306-317.
2. B.L. Averbach and M. Cohen, Trans. AIME 176 (1948), 401-415.
3. Y.M. Mos et al., Geomicrobiol. J. 35 (2018), 511-517. 

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